第 1 章 Spring Boot とは何か
第 1 章 Spring Boot とは何か
1-1 プロジェクトの使命と歴史
1-1-1 誕生の背景
Spring Boot は「スタンドアロンで本番運用可能な Spring アプリケーションを最小構成で“just run”できるようにする」という思想の下、2014 年に誕生しました。Spring に詳しくない開発者でも短時間でクラウドや PaaS へデプロイできる――そんな“container-less web application architecture” への要求が JIRA チケットに寄せられたことがきっかけです。(spring.io)
1-1-2 公式ミッションと主要ゴール
公式サイトではミッションと“Primary goals”が明文化されています。
- Radically faster on-boarding : すぐにコードを書き始められる体験を提供
- Opinionated, but flexible : デフォルトは決め打ち、逸脱はいつでも可能
- Non-functional features out-of-the-box : 組み込みサーバー、外部設定、ヘルスチェック、メトリクスなどを標準搭載
- No code generation / no XML : 生成物や冗長な XML を必要としない(docs.spring.io)
1-1-3 リリース年表
| 年月 | バージョン | 技術的トピック |
|---|---|---|
| 2014-04 | 1.0 GA | Embedded Tomcat とスターター依存を導入。“コンテナレス”開発を実現。(spring.io) |
| 2018-03 | 2.0 GA | Spring 5 / WebFlux を採用。Actuator 強化、Gradle 5 対応。(spring.io) |
| 2022-11 | 3.0 GA | Java 17・Jakarta EE 9 ベースへ刷新。GraalVM ネイティブサポートを正式化。(spring.io, spring.io) |
| 2023-11 | 3.2 GA | Virtual Threads と Project CRaC 初期対応、RestClient / JdbcClient 追加。(spring.io) |
| 2025-05 | 3.5 GA | 構造化ログ強化、Service Connection の SSL、Bean のバックグラウンド初期化などを提供。(spring.io) |
ポイント : 3.x 系以降は “Java 17 以上必須” が大前提。旧バージョンのランタイムでは動作しないため、移行時は Docker ベースイメージや CI/CD の JDK を必ず更新すること。
1-2 主な特徴と利点
| カテゴリー | 概要 |
|---|---|
| スターター依存 | spring-boot-starter-* を追加するだけで、Tomcat・JPA・Security などの依存／設定が一括管理される。 |
| 自動設定 (Auto-configuration) | クラスパスを解析し、条件アノテーション (@Conditional*) で最適な Bean を生成。「書かないときはゼロ設定、書きたいときは自由」なバランスを実現。 |
| 組み込みサーバー | Tomcat・Jetty・Undertow などを “組み込み” で提供。java -jar だけで HTTP サーバーが起動し、WAR 配布が不要。(docs.spring.io) |
| Production-ready Features (Actuator) | /actuator/health や /metrics 等 30 以上のエンドポイントでヘルスチェック／メトリクス取得が可能。外形監視や Prometheus 連携も標準。(docs.spring.io) |
| Opinionated Defaults | ロギング（Logback）、JSON（Jackson）、設定ファイル（application.yaml/properties）など実務で必要な選択肢を“良い塩梅”でプリセット。 |
| 開発者体験 (DX) | Spring Initializr、DevTools ホットリロード、CLI (Groovy スクリプト) によりプロトタイピングが高速化。(spring.io) |
| クラウド／コンテナ連携 | Cloud Native Buildpacks（bootBuildImage）で安全な OCI イメージを生成し、Kubernetes 等に即デプロイ可能。 |
| ネイティブビルド | GraalVM Native Image + Spring AOT により 100 ms 台で起動し、メモリを 1/10 まで削減できるケースも。 |
| 拡張性 | “Starter + Auto-Config + Library” の 3 点セットで、社内共通機能をプラグインとして配布可能。 |
1-3 Spring Boot 3.x の位置付けと進化ポイント
1-3-1 技術スタックの刷新
- Java 17 / Jakarta EE 9+ がミニマム要件。
javax.*パッケージは完全にjakarta.*へ移行。(spring.io) - Spring Framework 6 を基盤に AOT と Observability が強化され、GraalVM でも JVM でも同じ構成で動作。
1-3-2 3.x 系マイナーリリースの主要機能
| バージョン | ハイライト |
|---|---|
| 3.0 (2022-11) | GraalVM ネイティブ GA、RFC 7807 準拠の Error Handling、Docker Compose サポート。(spring.io) |
| 3.1 (2023-05) | Service Connections の導入、Kubernetes 健康診断向けプローブ自動設定、DCR（Docker Compose Runner）。 |
| 3.2 (2023-11) | Virtual Threads (Java 21)、Project CRaC、RestClient / JdbcClient、Observability API 拡充。(spring.io) |
| 3.3 / 3.4 (2024) | Micrometer 1.14 系、Buildpack v0.10、SSL バンドル自動再読み込み、Testcontainers 2 系統合。 |
| 3.5 (2025-05) | 構造化ログ (application/logback-spring.xml 無しで JSON 出力)、Bean のバックグラウンド初期化、環境変数からの Properties 読み込み簡素化。(spring.io) |
1-3-3 エコシステムへの影響
- 仮想スレッド対応により従来の Reactive／非同期コードを簡潔化できる反面、監視ツールやライブラリのスレッド管理 API 互換性を要確認。
- GraalVM ネイティブは “スモールフットプリント × 高速起動” を実現する一方、動的プロキシやリフレクションを多用するアプリでは Native Hint の追加が必須。
- Jakarta 移行で “import 変更だけ” と侮らず、依存ライブラリが jakarta 対応済みかを CI で常に検査すること。
まとめ
本章では Spring Boot のミッション・歴史・主要機能 を俯瞰しました。次章以降は、ここで触れた概念を具体的に深掘りし、3.x 系の最新 API とベストプラクティスを体系的に解説していきます。